「君は他の誰とも似ていなかった」

 

 あの子はいつも穏やかだった。

 

 周りの19歳はみんな恋とか音楽とかファッションに夢中で落ち着きがなかったけれど───もちろん僕もそうだった───、あの子の19歳はとても落ち着いていて、穏やかで、同い年なのに「大人」を、憧れるような大人を、あの子に見た。

 

 僕はそんなあの子に惹かれた。

 

 僕にはないもの、僕がきっとどれだけ努力しても獲得できないもの。

 

 あの子は、それをすべて持っていた。

 

 あの子は周りの19歳とは決して似てなかった。

 周りの女の子たちはみんなお化粧をばっちりして───例外なく女の子たちはチークを付けていた───、同年代の、あるいはすべての男たちに好かれるような服装をして、財布はコーチで、バッグはサマンサタバサで、みんな茶髪でふわふわな髪型をしていたのに、あの子は、いつもすっぴんで、黒髪のポニー・テールで、服装も無地のパーカーにリーバイスの501で、靴はハイカットの黒のコンバースを履いていた。

 

 そんなあの子はいつもひとりで、決して群れていなかった。

 

 でも、教授や同級生と話す機会があると、いつもハキハキと、堂々と話していたから、人とのコミュニケーションが苦手な様子はなかった。

 

 でも、あの子が他の女の子や男の子から親しげに話していたかと思うと、講義がおわるとあの子は一目散に教場を出て、誰とも一緒に帰らなかった。

 

 キャンパス内の階段であの子をすれ違っても、図書館で偶然見かけても、あの子はいつもひとりだった。

 

 でも、ひとりでいるのに、いつも表情は柔らかく、凛としていて、自分が自分であることに自信があるような雰囲気で───そうだ、高校の倫理の授業で「アイデンティティー」という言葉を習ったけど、それが確立されてるようだった。

 

 そんなあの子に僕は惹かれた。

 

 僕は、あの子と仲良くなりたかった。

 

 でも、勇気がだせず、話しかけることができなかった。

 

 「いつもひとりでいるあの子は『あいつら』からは「変な子」って思われてるだろうから、そんなあの子に話しかけたら、「変な奴ら」と、セットで思われて、『あいつら』からはもう仲間にされないかもしれないな・・・。それに、あの子に話しかけても、あの子にそっぽを向かれて、もしかしたらひどいことを言われるかもしれないなぁ・・・」

 

 あぁ、今になって振り返っても、なんてバカバカしい。本当に情けないよ。

 

 他人の目を気にして、傷つくことを怖がって、心の底から望んでいることを結局しないなんて。

 

 僕は自分を責めた。

 

 責めても、あの子が大学に戻ってくるとは限らない。

 

 僕は、天を仰いで、祈るしかなかった。

 

 祈るしかなかったのだろうか?